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最高裁判所第三小法廷 昭和38年(オ)431号 判決 1967年3月14日

上告人

花巻温泉株式会社

右代表者

川村光

右訴訟代理人

吉田賢雄

阿部一雄

被上告人

右代表者法務大臣

田中伊三次

右指定代理人

鰍沢健三

(ほか四名)

被上告人

金敬芳

(ほか四名)

右五名訴訟代理人

及川憲一郎

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

上告人の被上告人国に対する訴を却下する。

被上告人金敬芳は、上告人に対し、別紙目録(一)ないし(三)の土地につき盛岡地方法務局花巻支局昭和二五年七月二五日受付第二七六八号をもつてなされた所有権保存登記の各抹登記手続をせよ。

被上告人佐々木宇志三は、上告人に対し、前記(一)の土地につき同支局昭和三一年二月二四日受付第九四二号をもつてなされた抵当権設定登記(三)および前記の土地につき同支局昭和三〇年一一月二八日受付第四〇三七号をもつてなされた抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

被上告人阿部昭十および同阿部チヅ子は、上告人に対し、前記(一)の土地につき同支局昭和三一年二月二四日受付第九四〇号をもつてなされた抵当権設定登記および同支局同年六月二九日受付第三三一〇号をもつてなされた抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

被上告人岩崎清一郎は、上告人に対し、前記(二)の土地につき同支局昭和三〇年一二月二一日受付第四四六三号をもつてなされた抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。訴訟の総費用中、上告人と被上告人国との間で生じた部分は上告人の負担とし、その余の部分はその余の被上告人らの負担とする。

理由

職権をもつて按ずるに、上告人は被上告人国に対し原判示の各買収土地につきなされた登記用紙の閉鎖の回復手続および所有権移転登記の抹消登記手続を求めるところ、不動産登記用紙の閉鎖(不動産登記法二四条ノ二)がなされた場合には、たとえ右閉鎖が違法になされたものであつても、その回復手続は、これを定めた規定がないから、許されないものと解すべきである(このような場合には、当該不動産の所有者からあらたに所有権保存登記を申請するか、あるいは、当該不動産につき第三者名義の所有権保存登記がなされているときは、真正な所有者から右名義人に対し、所有権移転登記手続を求めるべきである。)。したがつて、上告人の被上告人国に対する請求を棄却すべきものとした第一、二審判決は、取消、破棄を免れず、上告人の被上告人国に対する訴を却下すべきである。

上告代理人吉田賢雄、同阿部一雄の上告理由第一点について。

行政事件訴訟特例法(以下特例法という。)のもとにおいては、行政処分取消判決は、当該訴訟の当事者に対し効力を有するにとどまらず、すべての第三者に対しても効力を有するものと解するのを相当とする。けだし、特例法一二条は、「確定判決は、その事件について関係の行政庁を拘束する。」と規定するにとどまり、行政処分取消判決は第三者に対しも効力を有する旨の規定はないけれども、行政上の法律関係はその性質上画一的に規制されるべきものであることに徴すれば、行政処分取消判決の形成力は第三者に及ぶものと解すべきであるからである。

ところで、行政処分無効確認訴訟については、特例法になんらの規定がないのであるが、無効な行政処分によつて権利を侵害されたと主張する者は、現在の法律関係に関する訴の前提問題として行政処分の無効を主張しうるにとどまらず、直接、行政処分無効確認の訴を提起しうることが判例上肯認されてきたのである。その実質的理由は、期間の徒過等により行政上の不服申立ならびに行政処分取消の訴の提起が許されなくなつたような場合であつても、当該行政処分に重大かつ明白な瑕疵があるときは、行政処分無効確認の訴を提起することによつて、行政処分取消の訴を提起した場合と同様の救済を与えようとする趣旨であるから、右行政処分無効確認判決の効力は、行政処分取消判決の効力と同様に、訴訟の当事者のみならず、第三者に対する関係においても、画一的に生ずるものと解しなければならない。もし、行政処分無効確認判決の効力が第三者に及ばないと解すべきものとすれば、特例法のもとで行政処分取消の訴の一変形として肯認されてきた行政処分無効確認の訴は、著しくその機能を損ずることになるのであつて、この意味においても、行政処分無効確認判決は、第三者に対しても、その効力を有するものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の確定したところによれば、上告人所有の本件土地は自作農創設特別措置法三〇条にあたる未墾地として買収されたので、上告人は、岩手県知事を被告として盛岡地方裁判所に対し右買収処分の無効確認の訴を提起したところ、同裁判所は、昭和三〇年六月一三日右買収処分の無効であることを確認する旨の判決を言い渡し、右判決は、同月二九日確定したが、被上告人国を除くその余の被上告人ら(但し、被上告人阿部昭十および同阿部チヅ子については、その被相続人亡阿部周蔵)は、それぞれ本件土地につき原判示の各登記を経由した、というである。しかし、前叙のとおり、前記買収処分無効確認判決の効力は、被上告人国に対して及ぶのみならず、その余の被上告人らにも及ぶものと解すべきであるから、上告人は、被上告人らに対し、本件土地の所有権を主張することができるのであつて、被上告人国を除くその余の被上告人らは、それぞれ上告人に対し、主文掲記の各登記の抹消登記手続をすべき義務があるものといわなければならない。右と見解を異にする第一、二審判決は、その余の論旨について判断を加えるまでもなく、取消、破棄を免れない。

よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(柏原語六 田中二郎 下村三郎)

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